富山地方裁判所 昭和39年(行ウ)1号 判決 1971年5月28日
原告 酒井敏雄
被告 富山県知事
訴訟代理人 松澤智 外五名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
被告が昭和三八年一二月二八日付でなした富山県配置家庭薬商業組合の設立認可処分を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
二 被告
1 本案前の裁判として、
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
2 本案の裁判として、
主文同旨
の判決。
第二当事者の主張
(原告の請求原因)
一 訴外富山県配置家庭薬商業組合(以下訴外組合という)は、中小企業団体の組織に関する法律に基づき、昭和三八年五月一日富山市千歳町二〇番地富山県薬事研究所講堂において創立総会(以下本件創立総会という)を開催のうえ、定款の承認、事業計画の設定および収支予算決定に関する各議決(以下本件各議決という)ならびに役員の選挙(以下本件選挙という)を行い、訴外組合の発起人代表塩井幸次郎は同年八月五日右定款、事業計画、役員の氏名、住所その他の事項を記載した書面を被告に提出して訴外組合設立の認可を申請したところ、被告は同年一二月二八日付で右組合の設立を認可(以下本件認可処分という)し、同三九年一月一一日設立登記がなされた。
二 原告は訴外組合の組合員たる資格を有し、本件創立総会開催日までに訴外組合の発起人に対し設立の同意を申し出た者で、訴外組合成立後はその組合員となつたものである。
三 しかしながら、被告のなした本件認可処分は次のとおりのかしがあるから、取り消されるべきものである。すなわち、商業組合設立認可の申請については、設立の手続や定款もしくは事業計画の内容が法令に違反していないかどうかを調査し、もし違反するときは組合の設立を認可してはならない(中小企業団体の組織に関する法律四二条二項二号)にもかかわらず、被告はこれらの点につきなんらの調査もすることなく法令に違反した訴外組合の設立に認可を与えたものである。
四 よつて被告のなした訴外組合の設立認可処分の取消しを求める。
(被告の主張に対する答弁)
訴外組合の設立の手続や定款もしくは事業計画の内容が法令に違反せず、したがつて本件認可処分が適法であるとする被告の主張は争う。すなわち、
一 訴外組合の定款の内容は中小企業団体の組織に関する法律四三条に違反し違法である。すなわち、
訴外組合の定款中には第2章第七条1項(4)の安定事業に関する制限として、イ、組合員の販売する医薬品の種類に関する制限、ロ、組合員の販売する医薬品の販売数量に関する制限、ハ、組合員の販売する医薬品の販売方法に関する制限、ニ、組合員の販売する医薬品の販売価格に関する制限、ホ、前各号に掲げる制限に附帯する事業の各規定があるが、同法一七条一項四号ロの「購買価格の制限」の事業に関する規定がない。これは組合の定款には事業を記載しなければならないと定める同法四三条に違反している。
二 中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条一、二項が要求している定款および創立総会開催の日時、場所の公告が適法になされていない。すなわち、
1 定款の公告が本件創立総会開催の日の前に一度もなされていない。
2 訴外組合発起人は本件創立総会開催の日時、場所を昭和三八年四月一八日付家庭薬新聞に掲載して公告したが、右公告は法定期間を欠いているので公告としての効力はない。けだし、公告は創立総会開催の日の少なくとも二週間前までにしなければならないと規定されているから、創立総会開催の日と公告開始の日を除きその中間に少なくとも二週間を要するわけであり、同年五月一日開催の本件創立総会の場合には公告開始の日は同年四月一六日以前でなければならないにもかかわらず、公告開始が四月一八日であつたからである。
3 本件創立総会議事録には昭和三八年四月一七日付北日本新聞に開催公告をなす旨の記載があるが、右新聞には本件創立総会開催の場所の記載がないうえ、右新聞に掲載してなした公告は前記2と同一の理由により法定期間を欠いているので、公告としての効力はなく、また原告は右新聞を講読していないので知ることができず、公告としての効力を有しない。
三 中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条五項所定の定足数および最低表決数を欠いている。すなわち
1 訴外組合発起人代表塩井幸次郎が昭和三八年八月五日付で被告に提出した認可申請書によれば、設立同意者は四、二九一名と記載されているから定足数は二、一四六名であり、また議決に必要な最低表決数は一、四三一名であるところ、本件創立総会における出席者は一五〇名、本件各議決の賛成者は五〇名であつたから、右定足数および最低表決数を欠いていたことが明らかである。
2 右認可申請書によると、本件創立総会における本人出席者数二九五名、代理人(委任状)出席者数一、〇三二名、書面出席者数一、〇七二名とそれぞれ記載されているが、仮に右記載が事実に合致していたとしても代理人および書面をもつて議決権、選挙権を行使することは許されないのであるから代理人(委任状)出席者数および書面出席者数を定足数に算入することはできない。なんとなれば
(一) 中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条六項、一一条二項によれば、書面または代理人による議決権、選挙権の行使は定款にこれを認める旨の規定がある場合に限り許されるものであるところ、右にいわゆる定款とは適法に議決された定款をいい、創立総会の段階ではこの意味における定款は存在しないから、本人の出席による権限行使が必要であり、書面または代理人によることは許されないのである。
(二) 書面をもつてする議決権、選挙権の行使については、訴外組合の発起人が本件創立総会に出席できない設立同意者に対し定款で定める支部別に予め書面議決書用紙を配布し、これを右発起人の責任において回収して集計した結果、昭和三八年四月二九日までに書面議決書を提出した一、〇七二名の設立同意者の全員が各議案に賛成であることが判明したことになつているが、右発起人は本件創立総会に出席できない設立同意者のために書面議決者の外には議決を要する議案の内容を記載した印刷物を配布していないのであるから、これらの者には議案の内容がわからず、賛否を決しえないはずである。したがつて右の一、〇七二名を定足数に算入することは許されないし、また仮に議決を要する議案の内容を記載した印刷物が配布されていたとすれば、訴外組合は前記のとおり定款の公告をしていないので、他の設立同意者は定款を見ていないのであるから、右印刷物の配布を受けた人と受けていない人とは差別して取り扱われたことになるが、これらの点は、結局中小企業団体の組織に関する法律四七条、中小企業等協同組合法二七条、一一条三項に違反していることになり、両者を同一に取り扱い、ともに定足数に算入することは許されない。
(三) また、訴外組合の発起人に提出された各委任状には受任者の氏名が記載されていなかつたが、民法六四三条によれば委任は当事者の一方が法律行為を為すことを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによつて効力が生ずると規定されているから、右のような委任状では受任者がなく、結局委任契約が成立していないことになり、したがつて代理人(委任状)出席者数を定足数に算入することはできない。
(四) 本件創立総会開催の当日に委任状および書面議決書が右創立総会議場に提出されたことがない。
よつて、代理人(委任状)出席者数および書面出席者数を定足数に算入することができない。
3、中小企業団体の組織に関する法律一二条一項は「商工組合は、組合員たる資格を有する者の二分の一以上が組合員となるのでなければ、設立することができない。」と定め、さらに組合員たる資格を有する者については同法一一条に「その地区内において資格事業を営む中小企業者」などとも定められているが、右組合員たる資格を有する者を全国の都道府県知事が薬事法三〇条により許可した配置販売業者であると解するならばその数は一万八、七〇一名であるのに、訴外組合の創立総会議事録によれば設立同意者は四、二九一名にすぎず、また組合員たる資格を有する者を富山県知事が許可した配置販売業者であると解するならば、その数は六二九名であるから、訴外組合の設立同意者四、二九一名の大部分は組合員たる資格を有しないこととなり、したがつて結局、組合員たる資格を有する者をいずれに解するとしてもこれらの人々によつて設立された訴外組合は中小企業団体の組織に関する法律四七条、中小企業等協同組合法二七条五項に違反している。
四 本件選挙は中小企業団体の組織に関する法律四七条二項、中小企業等協同組合法三五条七項、九項、一〇項に違反してなされたものである。すなわち、
本件選挙の際原告は本件創立総会の議長を勤めていた塩井幸次郎に対し役員選挙は無記名投票によつて行うべきことを要求し、かつ原告が右選挙に立候補する旨申し出たにもかかわらず、議長塩井幸次郎は原告の右申出を無視して指名推選の方法を用いたのみならず、理事として塩井幸次郎外二一名、監事として辻恒久外四名を指名した後、ただちに閉会を宣し、右被指名人を当選人としたのである。
五 本件創立総会の議事録には議事の経過の要領やその結果の記録をした者の氏名が記載されていないから、中小企業団体の組織に関する法律四七条、中小企業等協同組合法二七条六項、商法二四四条二項に違反している。
六 原告は昭和三八年七月当裁判所に創立総会決議取消請求の訴を提起した。ところで、中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条六項、商法二四七条二項、一〇五条四項によれば、このような訴の提起があつたときは組合は遅滞なくその旨を公告することを要すると定めているにもかかわらず訴外組合は右公告をしなかつたので違法である。
(被告の本案前の主張)
一 原告には本件訴訟につき当事者適格が存しない。
行政処分の取消しを求める訴えは当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起することができるものとされ(行政事件訴訟法九条)、取消訴訟を提起できるのは当該処分によつて法的に保護された利益が侵害されまたは直接法律上の不利益をうけた者で、勝訴の判決によりその不利益が除去されうる者に限られるものというべきである。いまこれを原告についてみると、
1 原告は本件認可処分によつて個人として財産上、身分上の法律的地位につきなんらの侵害を受けていない。あるいは違法な手続により設立された訴外組合から現に毎月組合費を徴収される財産上の不利益があるとも考えられないではないが、右不利益は単に原告と訴外組合との間の関係にすぎず、原告は訴外組合から脱退するか、訴外組合の設立取消し、無効確認請求に基づく発起人に対する損害賠償を請求することで右不利益は解決されるというべきである。
2 中小企業団体の組織に関する法律一〇条によれば、商工組合の地区は資格事業の種類の全部または一部が同一である他の商工組合の地区と重複するものであつてはならないとされているから、新たに商工組合を設立しようとして被告に設立認可申請をしても、本件認可処分が存する限り、認可を受けることができないということができるが、未だ被告に対し別個の発起人、法定数の販売業者から商工組合の設立認可申請のなされた事実はなく、また本件認可処分が存するため新たな商工組合設立認可の申請に対し不認可処分がなされた場合には、右商工組合設立認可の申請をした者から本件認可処分に違法があるとしてその取消しを求める訴えの利益があるといいうるとしても、このようなことのない原告に訴えの利益があるものとすることはできない。
結局、原告には本件認可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者ということができない。
二 原告は本訴につき訴の利益を有しない。すなわち、原告は当裁判所昭和三八年(ワ)第一一六号創立総会決議取消請求事件(以下別件訴訟という)において訴外組合を被告として本件各議決および本件選挙取消を求め、その請求原因として本訴と同じく訴外組合の設立手続の瑕疵を主張しているのであるが、別件訴訟を提起したうえさらに本訴の如き抗告訴訟を提起する訴の利益は次のとおり原告に存しないというべきである。
1 本件認可処分は行政処分のうち、国民に特定の権利、権利能力または包括的な法律関係その他法律上の効力を発生、変更、消滅せしめる形成的行為に属し、第三者の法律的行為を補充してその効力を完成せしめる、いわゆる補充行為であると考えられる。このことは、中小企業団体の組織に関する法律が組合の設立などを発起人の意思にまかせ(同法四一条)、組合員は任意に加入し脱退する自由を有し(同法三四条、三七条、三八条)、その結果組合員総数が確定的でないことがその特徴であるとされていることからも首肯できるところであり、この意味において本件認可処分は農地法三条、五条における知事の許可と同様の性質をもつ行為である。
そして、本件認可処分は組合設立という第三者の法律行為の効力を完成せしめる行為にすぎないのであるから、基本たる右設立行為が不成立または無効のときには、それに対する認可によつて基本たる行為が有効となることはないし、また基本たる行為に対し外形上与えられた認可もその基礎を失う結果、効力を発生するに由なきものとなるはずである。したがつて、基本たる行為の取消しを求めたうえ、さらに認可そのものの取消しを求める訴えの利益は存しないというべきである。
2 中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条、三二条によれば、訴外組合の創立総会や組合の設立については商法二四七条、二五二条、四二八条の規定が準用されているので、本件創立総会の決議や訴外組合の設立に瑕疵があるというのであれば、商法の右規定により右瑕疵を主張して裁判所に出訴し、右決議などの効力を争えば足りるのであつて、同一の問題につきさらに行政処分取消しの訴えを提起する利益はないというべきであり、かつ同一の問題につき二重に裁判所の判断がなされるのを防止するためにも不服申立を行なう途を封ずる必要がある。この関係は農業協同組合法九六条で総会の決議などの瑕疵に関して商法の株主総会に関する規定を準用せず、行政庁の取消権を認め、別に議決の取消しなどの民事上の救済を求める訴えの利益がないとされるのと同様の関係である。
3 中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条六項によれば、訴外組合の創立総会の決議については商法二五〇条の規定が準用される結果、別件訴訟が原告勝訴で確定すれば、定款に定められた事業、名称、地区、事務所等の事項の登記が抹消されることとなるから、このような場合、さらに行政庁の認可の取消しを求める実際上の必要もないというべきである。
(原告の請求原因に対する認否)
一 請求原因事実1、2はいずれも認める。
二 同3は争う。
(被告の主張)
訴外組合の設立手続や定款もしくは事業計画の内容には、次のとおりなんら法令に違反した点はなく、したがつて右組合の設立につき被告のなした本件認可処分は適法である。
一 訴外組合の定款に記載すべき事項は中小企業団体の組織に関する法律四三条に規定されているとおりであつて、「購売価格の制限」の事業を行うことまたは行わないことについては必要的記載事項になつている訳ではないから、「購売価格の制限」の事業に関する規定が定款になくても違法ということはできない。また同法一七条一項四号の趣旨は過当競争を防止するため、種々の価格等の制限を行うことを当該商工組合の事業となしうることを定めたにすぎず、この事業を行うか否かは当該商工組合の創立総会の議決等において定められるべきことであり、これにつき本件創立総会で議決等がなかつた以上、定款中になんらの記載がないのは当然であり、違法ということはできない。
二 訴外組合の発起人は昭和三八年四月一七日以降同組合の創立事務所(富山市千歳町富山県薬業連合会事務所内)において、定款、創立総会開催の日時、場所、案件を記載した書面を掲示して公示し、また同月一七日付北日本新聞朝刊に右日時場所を掲載して公告し、同月一八日付家庭薬新聞にも同様に掲載して公告し、同月二四日全設立同意者に宛てて案内状を郵送して定款等を公示していた。
なお、中小企業等協同組合法二七条二項にいわゆる「会議開催日の少くとも二週間前」とは、会議開催日の前日を第一日として逆算し、一四日目に当る日以前を指すものと解すべきであるから、右各公告は期間の点においても適法になされたものというべきである。仮に、右主張が認められないとしても一般に決議取消の訴えの提起期間が三か月内と法定されている趣旨に則り、相当の期間経過後においては右瑕疵は治癒されて、もはや設立認可処分の効力になんらの影響も及ぼさないものと解すべきである。
三1 中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条五項によれば、創立総会の定足数は設立同意者の半数以上ということになつているので、本件においては設立同意者数が四、二九一名であるから、定足数としては二、一四六名あれば足りるが、訴外組合の創立総会議事録によれば、設立同意者本人の出席二九五名、代理人(委任状)出席者数は一、〇三二名、書面出席者数は一、〇七二名で、合計二、三九九名の出席があつた旨の記載があるから、右定足数は完全に満たされていた訳であり、被告において認可の際に調査を遂げた結果では、右議事録の設立同意者本人の出席数は本件創立総会終了時において確認した最終的な数であつたことおよび書面出席者数とその議決権行使については、発起人が出席できない組合員に対し定款で定める支部毎にあらかじめ書面議決書用紙を配布し、これを発起人の責任において集収して集計した結果、昭和三八年四月二九日までに一、〇七二名がこれを提出していたことなどが判明したものである。
2(一) 中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条六項、一一条によれば、組合員は定款に定めるところにより書面または代理人をもつて議決権または選挙権を行うことができると定められているのであつて、創立総会開催の段階における定款とは発起人により作成、公告され、創立総会の議決を経るべき定款の意味であり、本件創立総会に付議された組合定款案三八条には総代会における総代の議決権等の行使の方法につき、「総代は、前条の規定によりあらかじめ通知のあつた事項につき、書面または代理人をもつて議決権または選挙権を行使することができる。」とあるのであるから、代理人(委任状)出席者数および書面出席者数を定足数に算入することは適法である。
(二) 訴外組合の発起人に提出された各委任状には受任者の氏名が記載されていなかつたことは事実であるが、このようないわゆる白紙委任状も無効であると解すべきではなく、白紙委任状による代理人出席者数も定足数に算入することは適法である。
(三) 委任状および書面議決書は本件創立総会議場に提出されている。
3 薬事法三〇条、三二条によれば、配置販売業の許可は配置しようとする区域を含む都道府県ごとにその都道府県知事が与えることとされており、配置販売業者が配置販売に従事するときはその氏名を届け出ることになつているが、これは配置販売業の特殊性に鑑み、医薬品等に関する事項を規制しその適正をはかることを目的とする薬事法の立法趣旨に従つて定められたものであり、他方、中小企業団体の組織に関する法律は中小企業者の経営の安定および合理化等をはかることを目的として制定されたものであつて、薬事法の立法趣旨とはその本質を異にするものである。したがつて、中小企業団体の組織に関する法律一一条にいわゆる「その地区内において資格事業を営む中小企業者」の概念については同法の目的に応じて別に定めるべきものであり、当該都道府県で許可を受けたものに限定する理由はなんら存しないのである。したがつて、本件において組合員はいずれかの都道府県知事の許可を受けたものであつて、富山県内に住居を有するものであれば足りるから、そのようなものとして前記のとおり四、二九一名が訴外組合の設立に同意することを申し出たものである以上、同法四七条、中小企業等協同組合法二七条五項に違反することはない。
4 本件創立総会において、各議案はいずれも原案どおり全員賛成して可決されたものであり、最低表決数についても問題は存しないというべきである。
四 中小企業団体の組織に関する法律四七条二項、中小企業等協同組合法三五条九項によれば、役員の選挙は、無記名投票の方法によつて行うものとした同条七項の規定にかかわりなく、出席者中に異議がないときは、指名推選の方法によつて行うことができるものであるところ、本件創立総会議事録によれば、出席者には指名推選の方法によつて行うことに異議はなく、その他前記法条に所定の方法を履践していることが明らかであるから、なんら違法の点は存しないというべきである。
仮に、本件選挙につきなんらかの瑕疵が存したとしても、創立総会において役員選任手続が全く行われなかつたような場合を除き、創立総会の決議無効または取消し事由が役員選任決議にのみ存するようなときは、組合の設立自体にはなんら影響を及ぼさないものと一般に解されているばかりでなく、瑕疵ある役員選挙によつて選任されたといわれる役員もすでに任期満了し、その後新たに役員がいずれも有効に選任されているので、右瑕疵は治癒されたものとみるべきであるから、今になつて過去になされた本件選挙の瑕疵を理由として本件認可処分を取消す必要性は全く存しないというべきである。
五 本件創立総会の議事録には議事の経過の要領が記載され、また議長をつとめていた塩井幸次郎が右議事録を作成し、出席発起人らとともに署名押印していることが明らかであつて、これらの点に欠けるところはない。
六 中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条六項、商法二四七条二項、一〇五条四項にいわゆる公告の趣旨は提訴権者がこれをみて自分も提訴すべきかどうかの考慮をさせ、もし提訴することに決すれば所定の提訴期間内に提訴させようとするためのものであつて、結局他の提訴権者の便宜をはかるための規定にすぎないから、仮に訴えの公告がなかつたとしても、このことをもつて訴外組合設立の手続が違法となるものではない。
(被告の本案前の主張に対する原告の反論)
一 原告は本件につき当事者適格を有する。すなわち、
中小企業団体の組織に関する法律一〇条によれば、商工組合の地区は資格事業の種類の全部または一部が同一である他の商工組合の地区と重複するものであつてはならないとされているから、新たに商業組合を設立しようとして被告に設立認可申請をしても、本件認可処分が存する限り新たに認可されないということになる。ところで、同法一八条によれば、商工組合はその実施しようとする安定事業などに関し、調整規定を設定して主務大臣の認可を受けなければならないと規定され、右認可の申請の可能性は単なる将来の不確定な予測ではなくて原告がいつでも認可の申請をする可能性があり、この場合同法一〇条の規定により認可されない可能性があるから、結局原告には本件認可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者ということができる。
二 原告は本訴につき訴えの利益を有する。
原告が当裁判所に提起した別件訴訟は、本訴とは請求の趣旨が異なるのであり、別件訴訟の存在を理由に本訴を提起する訴えの利益がないということはできない。
1 被告は別件訴訟の存在を理由に原告には本訴を提起する訴えの利益がないと主張し、その理由として、中小企業団体の組織に関する法律四二条に規定する知事の認可は、農地法三条および五条に規定する知事の許可と同様に単なる補充行為にすぎず、基本たる法律行為が不成立または無効のときには無意義なものとなり、したがつて基本たる法律行為の取消しを求めることで、原告の意図は十分達せられるというけれども、農地法三条および五条は権利移転に関する規定であつてその許可は権利移転の制限を解除するものであるから単なる補充行為ということはできないし、また、被告は、中小企業団体の組織に関する法律の設立などを発起人の意思にまかせ、組合員は任意に加入したり、脱退する自由を有し、その結果組合員総数が確定的でないことが組合の特徴であるとされている。そしてこのことが、本件認可処分が単なる補充行為である理由であると主張するが、同法一二条一項は組合員たる資格を有する者の二分の一以上が組合員となるのでなければ、設立することができないと規定しているのであるから組合員総数は確定的であつて、被告の右主張は誤りである。
次に、別件訴訟は必ずしも原告勝訴に確定するとは限らないし、いずれは確定するにしても、それまでは被告の設立認可した訴外組合が依然として存在しているから、原告には右認定の取消しを求める訴の利益がある。
2 被告は、本件創立総会の決議などに瑕疵があると主張する者は、中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業協同組合法二七条、三二条により商法二四七条、二五二条、四二八条の規定が準用されているので、商法の右規定により裁判所に出訴し、右決議などの効力を争えば足りるのであつて、本件認可処分の取消しの訴えを提起する利益はないというべく、このことは農業協同組合法九六条で総会の決議などの瑕疵に関して商法の株主総会に関する規定を準用しないで、行政庁に取消権を認め、これとは別に議決の取消しなどの民事上の救済を求める訴えの利益がないとされるのと同様の関係にあるというが、右農業協同組合法の規定は決議または選挙もしくは当選の取消処分を行政庁に請求しうることを定めたものであり、中小企業団体の組織に関する法律には、組合員または組合員となろうとするものが行政庁に右のような取消処分を求める規定はなく、したがつて一般的に行政事件訴訟法によつて、訴えを提起できるものといわねばならない。
3 別件訴訟が原告勝訴で確定すれば、定款に定められた事業、名称、地区、事務所等の登記事項が抹消されることとなることは被告の主張のとおりであるとしても、本件認可処分は依然存在し、被告自らこれを取消す手続がないから判決によつて取消すべきである。
以上により、原告は本件訴訟につき訴えの利益を有するというべきである。
第三証拠<省略>
理由
一 まず被告の本案前の抗弁について判断する。
思うに、行政処分の取消しを求める訴えは当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起することができるものであることは被告の主張するとおりである。いまこれを本件についてみるに、中小企業団体の組織に関する法律による商工組合は、その組合員の資格として定款で定めるいわゆる資格事業(本件では医薬品配置販売業)に関する指導、教育、情報または資料の収集・提供および調査研究などの事業のほか、同法にいわゆる安定事業や合理化事業として、組合員が例えば販売する資格事業にかかる物の種類もしくは販売の数量や方法、その物の購買の数量や方法、その物の販売価格もしくは購買価格などに関し、主務大臣の認可をうけて設定した調整規程の定めるところにより、制限を行うもの(同法一七条、一八条)であつて、この調整規定に違反した組合員に対しては、同規程で定めるところにより、過怠金その他の制裁を課することができる(同法二四条)のみならず、定款の定めるところにより、組合員に経費を賦課することができ(同法四〇条、中小企業等協同組合法一二条)るのであり、したがつて組合員たる者は、その営む資格事業について商工組合の行う安定事業や合理化事業上の諸制限による拘束を受けざるを得ないのはもとより、組合経費の分担義務を負うことにもなるのである。それ故、中小企業団体の組織に関する法律は商工組合の設立について高度な自由を認めていないのであつて、いわゆる認可主義を採り、その設立の手続または定款もしくは事業計画の内容が法令に違反する場合に、行政庁は発起人からの設立認可申請に対し、認可を与えてはならないのである(同法四二条二項二号)。しかるに、行政庁がもし商工組合の設立の手続または定款もしくは事業計画の内容が法定に違反するにもかかわらず、これを看過してその設立に認可を与えたとするならば、組合員たる者は、この違法な認可処分により成立をみた商工組合の行う前記事業上の諸制限による拘束や組合経費の賦課を免かれることができず、直接に法律上の不利益をうけるものというべく、この不利益は右認可処分取消しの判決により除去されうることが明らかである。そうだとすると、訴外組合が被告のなした本件認可処分によつて成立した中小企業団体の組織に関する法律による商工組合であり、そして原告が訴外組合の組合員たる資格を有し、同組合の創立総会開催の日までに発起人に対し組合設立の同意を申し出た者で、訴外組合の成立後はその組合員となつたことは当事者間に争いがないのであるから、原告が被告のなした本件認可処分に組合設立の手続や定款もしくは事業計画の内容が法令に違反することを看過してなされた違法があるものとして、これが取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者にあたることは、さきに述べたところにより、疑う余地がなく、そして原告には、訴外組合から脱退することなどにより前記不利益を解決する途があるからといつて、右認可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有しないとすることはできない。
次に、原告が別件訴訟で訴外組合を被告として本件各議決および選挙の方法の瑕疵を主張してその取消しを求めており、そして右訴訟で右議決などの組合設立行為が取り消された場合には、これに対する本件認可処分はその基礎を失う結果、効力を生ずる由のない関係にあることは被告の主張するとおりであるけれども、そもそも本件訴訟の判断の対象は本件認可処分の違法性の存否であつて、訴外組合の設立手続の違法性の有無を問題とする別件訴訟とは訴訟物を異にするから、原告が単に別件訴訟を提起しているというだけで、ただちに本件訴訟につき訴の利益を有しないといえないのはもちろん、別件訴訟ですでに原告勝訴の判決が確定したというのであれば、本件認可処分はその基礎を失う結果、その効力を生ずる由のない関係にあることは前記のとおりであるから、右認可処分の取消しを求める本件訴訟の訴の利益は否定されるべきであるにしても、別件訴訟が現に控訴審である名古屋高等裁判所金沢支部に係属中であることは当裁判所に顕著な事実で、その勝敗は将来の未知の事柄に属するので、この点からしても、原告が別件訴訟で訴外組合の設立手続などの適否を争つている一事をもつて本件訴訟の訴の利益を否定すべき理由とはなし難い。
なお、被告は、中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条、三二条によれば、訴外組合の創立総会や組合の設立については商法二四七条、二五二条、四二八条の規定が準用されているので、本件各議決や訴外組合の設立に瑕疵があるというのであれば、原告は商法の右規定により右瑕疵を主張して裁判所に出訴し、右議決などの効力を争えば足りるから、本件認可処分のような行政処分の取消しを求めて提起される訴のごときはその利益がないと主張するが、他に被告の指摘するような民事訴訟手続があり、それによつても結局ほぼ同様の目的を達しうるとしても、本件認可処分の取消し訴訟の利益を否定する理由となるものではない(序でながら一言するに、農業協同組合法は、「組合員がその総数の十分の一以上の同意を得て、組合又は中央会の総会(創立総会を含む。)の招集手続、議決の方法又は選挙が法令、法令に基いてする行政庁の処分又は定款若しくは規約に違反することを理由として、その議決又は選挙若しくは当選決定の日から一箇月以内に、その議決又は選挙若しくは当選の取消を請求した場合において、行政庁は、その違反の事実があると認めるときは、当該決議又は選挙若しくは当選を取り消すことができる。」旨の規定が設けられている(同法九六条、なお水産業協同組合法一二五条、消費生活協同組合法九六条も同趣旨である。)ことは被告のいうとおりであり、この規定による行政庁の取消しと裁判上の救済の関係をどのように考えるかは問題であるが、これを被告のように行政庁の取消権のみを認め、それ以外に議決の取消しなどの民事上の救済方法を許さない趣旨に解する余地が全くない訳ではない。これに対し、中小企業団体の組織に関する法律四七条の準用する中小企業等協同組合法二七条六項、五四条によれば、株主総会の決議の取消または無効に関する商法の規定(二四七条ないし二五〇条、二五二条、二五三条)を、総会(創立総会を含む。)について準用しているにとどまり、農業協同組合法におけるような行政庁に取消権を認める趣旨の規定はおかれていない。この相違は、結局両者の立法政策上の考慮が異なることに基づくものと考えるほかないが、このことと農業協同組合であれ、あるいは商工組合であれ、これら組合の設立認可処分に対しては、いかなる場合にその取消訴訟の利益を欠くことになるかは全く別箇の問題であつて、農業協同組合法が総会の決議などにつき、商法の株主総会の決議の取消または無効に関する規定を準用しないで、行政庁に取消権を認める規定をおいているということだけから、原告の本件取消訴訟の利益を否定することはできないものといわねばならない。)。
二 そこで以下本案について判断する。
1 (当事者間に争いのない事実)
原告の請求原因1および2の事実はいずれも当事者間に争いがない。
2 (定款の内容について)
訴外組合の定款には中小企業団体の組織に関する法律一七条一項四号ロの「購買価格の制限」の事業に関する規定がないことは当事者間に争いがないけれども、右規定がないからといつて同法四三条に違反しているということはできない。なんとなれば、同法一七条一項には、商工組合は、右の「購買価格の制限」の事業をも含め同条同項所定の諸々の事業の全部または一部を行うものとすると定められているのであるから、右の「購買価格の制限」の事業を行うか否かは訴外組合が定款をもつて自由に決しうるところであり、そして定款には組合が行おうとする事業のみを記載すれば足りるから、訴外組合が定款の組合の行う事業中に「購買価格の制限」なる事業の記載をせず、したがつて右事業を行わないことはもとより右組合の任意の事柄に属するから、その記載がないことを違法視することはできないからである。
3 (公告について)
いずれも成立に争いのない乙第二号証、第三号証の一、二、第四号証および当事者間に争いのない事実によれば、訴外組合の発起人は、昭和三八年四月一七日以降富山市千歳町富山県薬業連合会事務所内に設置した同組合の創立事務所において、訴外組合の定款、創立総会開催の日時、場所および案件を記載した書面を掲示して公示し、また同月一七日付北日本新聞朝刊に創立総会開催の日時、場所などを掲載して公告し(公告は不特定または不分明の相手方に対する告知方法であるから、原告が右新聞を購読していないということだけで、公告したことにならないとすることはできない。)、同月一八日付家庭薬新聞にも同様に掲載して公告し(右事実は当事者間に争いがない)たことが認められ、右認定に反する証拠はない。
右認定の事実関係よりすれば、訴外組合の定款の公告が本件創立総会開催の日の前に一度もなされていないとの原告の非難があたらないことは明らかといわねばならない。しかしながら、中小企業団体の組織に関する法律四七条により準用せられる中小企業等協同組合法二七条二項によれば、定款および創立総会の日時、場所の公告は会議開催日の少くとも二週間前までにしなければならないもので、右期間の計算については、特別の定めのない限り、民法の規定に則るべきものと解され、したがつて初日は算入されないから、昭和三八年五月一日を開催日とする創立総会の公告は少くとも同年四月一六日以前でなければならない。そうだとすると、訴外組合の発起人による前記公告はいずれも同年同月一七日以降になされたものであるから、右公告は前記法条所定の期間に一日たりない瑕疵があるものといわねばならない。しかし、中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条六項により準用される商法二四八条一項は総会の決議取消しの訴の提起期間を決議の日から三か月内と定めており、そして右期間は単に訴の提起そのものを制限しただけのものではなく、実体法的に決議取消しの原因となる瑕疵の主張をも三か月に制限したもので、したがつて右期間経過後は新たな瑕疵の追加主張を許さない趣旨であると解するのを相当とするところ、訴外組合の発起人が本件創立総会開催の日の少くとも二週間前までに定款および総会の日時、場所を公告しなかつた違法があるとの主張に基づき、なんびとかが右総会における本件各議決の取消訴訟を総会開催日である昭和三八年五月一日から三か月内に提起した事跡を認めるべき証拠がないのみならず、いずれも成立に争いのない乙第五号証の一ないし三、同第一一号証によれば、原告によつて別件訴訟でなされた右主張も同年九月六日の同事件の口頭弁論期日において始めてなされたものであることが認められるから、この新たな主張は前記法条による制限のために許されないものであることが明らかである。そうだとすれば、訴外組合の発起人によつてなされた前記公告には、前記のとおり中小企業団体の組織に関する法律四七条により準用せられる中小企業等協同組合法二七条二項所定の期間をおかなかつた違法があるけれども、右瑕疵のゆえにもはや訴外組合の創立総会の決議の効力が左右される余地は全くなくなつたものであること、その他右瑕疵の性質、態様などにかんがみれば、これをもつて本件認可処分の効力に影響を及ぼす程度のものと解することは到底困難であるから、右認可処分の取消原因たる瑕疵にあたらないといわねばならない。
4 (定足数および最低表決数について)
(一) (定足数の算定)
いずれも成立に争いのない乙第一号証、第一二号証の一、二によれば、訴外組合の設立同意者数は四、二九一名であつたことが認められるから、本件創立総会における本件各議決および本件選挙に必要な定足数は、中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条五項により、右四、二九一名の半数以上にあたる二、一四六名ということになる。
(二) (定足数以上の出席者の有無について)
前記乙第一、第二号証、第三号証の一および第一二号証の一、二、いずれも成立に争いのない第三号証の三、第一三ないし第一六号証ならびに証人中村公の証言を総合すると、
(1) 設立同意者本人の出席数は本件創立総会開催中に会場に出入りし出席者とされた者の総数としては二九五名であつたが、そのうち本件各議決および本件選挙の行われた時点において現実に出席していた者は少くとも一九八名であつたこと、
(2) 設立同意者で他の設立同意者に代理権を授与し、代理人により議決権等を行使し出席者とみなされた者の総数は九四二名であるが、本件各議決および本件選挙の行われた時点では右代理人による出席者は少くとも七九二名であつたこと、
(3) 設立同意者でその使用人を代理人として出席せしめ、議決権等を行使し、出席者とみなされた者の総数は本件議決および本件選挙の行われた時点で九〇名であつたこと、
(4) 書面により議決権等を行使し、出席者とみなされた者は一、〇七二名であつたこと、
(5) すなわち、本件各議決および本件選挙の行われた時点において、現実に出席していた設立同意者および出席者とみなされた設立同意者は少くとも二、一五二名であつたこと
が認められ、いずれも成立に争いのない甲第三号証の一、二、第七号証および第一〇号証の各記載中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照して採用し難く、その他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
そうすると、本件各議決および本件選挙の行われた時点において前記定足数二、一四六名以上の出席者があつたことが明らかである。
(三) (その他の問題点について)
(1) 原告は、創立総会の段階では適法に議決された定款が存在しないから、書面または代理人による議決権等の行使は許されず、したがつてこれらの者を出席者とみなして定足数に算入することはできない旨主張し、創立総会開催の段階では総会の議決を経て確定した定款が存在しないのは原告の主張するとおりであり、存在するのは中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条にいわゆる発起人により作成、公告され、かつその承認につき創立総会の議決を経るべき定款と組合員の資格を有する設立同意者に過ぎないけれども、中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条六項の規定に従つて創立総会に同法一一条を準用するならば、組合員の資格を有する設立同意者は、発起人により作成、公告され、かつその承認につき右総会の議決を経るべき定款の定めるところにより、書面または代理人をもつて議決権等を行うことができ、またこのような方法で議決権等を行う者を出席者とみなすことになり、前記乙第一号証および成立に争いのない同第八号証によれば、本件創立総会に付議された訴外組合の定款案第三八条には、総代会における総代の議決権等行使の方法につき「総代は、前条の規定によりあらかじめ通知のあつた事項につき、書面または代理人をもつて議決権または選挙権を行使することができる。」と定められているばかりでなく、右規定を同案五二条をもつて総会にも準用されている。そうだとすると、訴外組合が中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条六項、一一条および訴外組合の右定款案五二条、三八条などの諸規定に則り本件創立総会において書面もしくは代理人をもつて議決権等の行使を許し、かつこのような方法で右権限等を行う者を出席者とみなすことになんら違法の点なく、これと異なる見解のもとに本件創立総会における議決権等行使の方法を非難する原告の右主張は、畢竟前記法令および定款案の規定の誤解に基づくものであつて、採るに足りない。
(2) また原告は、書面により議決権等を行使した者を議決に参加した出席者とみなした点に関し、訴外組合の発起人は本件創立総会に出席できない設立同意者に対し書面議決書用紙の外には議決を要する案件の内容を記載した印刷物を配布していないのであるから、この者らには議案の内容がわからず、賛否を決しえないはずであり、したがつて右の者らを出席者とみなして定足数に算入することは許されない旨主張し、訴外組合の発起人が本件創立総会に出席できない設立同意者のために書面議決書用紙の外には議決を要する案件の内容を記載した印刷物を配布していないことは被告が明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべきところであるけれども、前記認定の書面により議決権等を行使した者らが、現に議決権等を行使している以上、これらの者が公告その他右書面議決書用紙の記載事項などにより議決を要する案件の内容を賛否の表明しうる程度に知り得たものと解するのを相当とするから、さらにそれ以上に、訴外組合の発起人が創立総会に付議する案の内容を記載した印刷物を右総会に出席できない設立同意者の個々に配布し、具体的、かつ詳細に議決を要する案件の内容を周知させる方法を採らなかつたことのみを理由に書面により議決権等を行使した者を出席者とみなしてはならないとする原告の右主張は失当といわねばならない。
なお、原告は、創立総会に出席できない設立同意者のために、もし議決を要する議案の内容を記載した印刷物が配布されていたとすれば、訴外組合は定款の公告をしていないので、他の設立同意者は定款を見ていないのであるから、右印刷物の配布を受けた者と受けない者が生じ、両者ともに設立同意者でありながら差別して取り扱われたことなる旨主張するけれども、訴外組合の発起人が、本件創立総会に出席できない設立同意者のために書面議決書用紙の外に議決を要する案件の内容を記載した印刷物を配布するような措置を講じなかつたことおよび右組合の創立事務所において定款、創立総会に付議する案件などを記載した書面を掲示して公示したものであることは前記のとおりであるから、原告の右主張は、その前提において事実とそごがあり失当である。
(3) 次に、原告は訴外組合の発起人らに提出された各委任状は受任者の氏名が記載されていないいわゆる白紙委任状であつて、受任者がなく、委任契約は成立しないから、このような委任状による代理人(委任状)出席者数を定足数に算入することは許されない旨主張するので、調べてみるに、訴外組合の発起人に提出された委任状が受任者の氏名の記載のないものであつたことは当事者間に争いのないところであり、前記乙第一二号証の二および証人中村公の証言によれば、訴外組合の発起人は、右委任状に基づき、本件創立総会に出席した設立同意者全員に対し、一人あたり委任状四通の割合で受任者を定めたことを認めることができる。
ところで、設立同意者がこのように受任者の氏名の記載のない委任状を発起人に提出したときは、これにより法令、定款等に定めるところに従い、適当な者を受任者(代理人)と定めて議決権、選挙権を行わせることを発起人に一任したものと解するのを相当とするところ、中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条により準用される同法一一条によれば、組合員が代理人をもつて議決権または選挙権を行う場合は、その組合員の親族もしくは使用人または他の組合員でなければ、代理人となることができない(同条二項後段)し、また代理人は五人以上の組合員を代理することができない(同条四項)とも規定されており、訴外組合の定款には、組合員が代理人をもつて議決権または選挙権を行使する場合に、代理人たる他の組合員が代理しうる組合員の数は四人までとする(五二条、三八条)ものと定められているので、訴外組合の発起人としては、受任者の氏名の記載のない委任状を提出した設立同意者の委託の趣旨に則り受任者を定めるには、右法令、定款の規定に従い、前記総会に出席した設立同意者全員に対し各々委任状四通の割合で議決権および選挙権の代理行使を委ねる以外に適当な方法が見あたらないから、これに依つて受任者を定めた発起人の前記認定の措置は相当であり、したがつて代理人(委任状)出席者数を定足数に算入することになんらの差支えもないので、この点に関する原告の主張は当を得ない。
(4) 原告は、設立同意者からの委任状や書面議決書が、本件創立総会開催の当日、総会議場に提出されたことがないから、代理人(委任状)出席者および書面出席者を定足数に算入してはならない旨主張するが、右委任状や書面議決書は議長など創立総会の議事の運営にあたる者の了知しうる状達におかれれば足り、必ずしも右総会議場に現実に提出されることを要しないと解されるばかりでなく、前記乙第一号証、第三号証の一、第一二号証の二によれば、右委任状や書面議決書は事務の都合上、本件創立総会開催の当日、右総会議場にあてられた富山市千歳町二〇番地所在の富山県薬事研究所講堂付近の訴外組合の創立事務所(同市同町所在の富山県薬業連合会事務所内)などで集計、整理され、その結果を逐次右総会議場内の議長などに報告されていたものであることが看取できるのであつて、そうだとすると、右委任状や書面議決書は、たとえ総会議場に現実に搬入されないで、右議場付近の訴外組合の創立事務所に存した儘であつても、同議場内の議長などが了知しうる状態におかれていたことが明らかであるから、右書面の取扱いに間然するところがなく、したがつて、該書面が総会議場に提出されなかつたことを前提とする原告の右主張は理由がない。
(5) 原告は、中小企業団体の組織に関する法律一二条一項は「商工組合は、組合員たる資格を有する者の二分の一以上が組合員となるのでなければ、設立することができない。」と定めているが、この「組合員たる資格を有する者」を、全国の都道府県知事が薬事法三〇条により許可した医薬品配置販売業者であると解すれば、その数は一万八、七〇一名で、訴外組合の設立同意者四、二九一名はその二分の一にみたないし、富山県知事が許可した医薬品配置販売業者であると解すれば、その数は六二九名で、右設立同意者四、二九一名の大半は組合員たる資格を有しない者となる旨主張するけれども、中小企業団体の組織に関する法律一二条一項にいわゆる「組合員たる資格を有する者」は、同法一一条によれば、「その地区内において資格事業を営む中小企業者………とする」と規定されており、しかして、それは、商工組合の地区内に居住して資格事業を営んでいる中小企業者であれば、その事業活動の区域が当該組合の地区内であるか、地区外であるかは問うところでないと解することができ、それ故訴外組合の定款は、組合員の資格を「薬事法二五条三号の規定による許可を受けた者で本組合の地区内に住居を有する者」とし(九条)、右組合の地区を「富山県一円とする」(三条)ものと定め、そして薬事法二五条三号にいわゆる医薬品配置販売業の許可は配置しようとする区域をその区域に含む都道府県ごとに、その都道府県知事が与える(同法三〇条)こととしているから、訴外組合の組合員たる資格を有する者は、結局、配置しようとする区域が富山県であれ、同県外であれ、これをその区域に含む都道府県の知事から医薬品配置販売業の許可を受けた者で、富山県に住所を有する者であれば足りることになる。されば、これと異なる見解に基づいて訴外組合の設立同意者四、二九一名の組合員資格を疑問視する原告の右主張は失当といわねばならない。
(四) (最低表決数の賛成の有無について)
中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条五項によると、本件創立総会における議決のための最低表決数は出席者数の三分の二以上を要するところ、前記甲第七および第九号証、乙第一号証、第一二号証の一、二、第一三ないし第一五号証および証人中村公の証言を総合すると、本件創立総会に付議された訴外組合の定款の承認、事業計画の設定、収支予算決定等の各議案はいずれも出席者数の三分の二をはるかに越える圧倒的多数の賛成で可決されたことが認められ、右認定に反する前記甲第一〇号証は、前掲各証拠に照して、とうてい採用することができず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はなく、したがつて、最低表決数になんら不足するところがなかつたことが明らかである。
5 (役員選挙の方法に関する瑕疵について)
前記甲第七、第九、第一〇号証の各記載、乙第一号証、第一二号証の一、二、第一三ないし第一五号証の各記載および証人中村公の証言の各一部(ただしいずれも後記採用しない部分を除く)を総合すると、次の事実を認めることができる。すなわち、
本件創立総会において議長になつた塩井幸次郎(この点は当事者間に争いがない。)は、本件選挙の冒頭にまず役員選挙の方法をいかようにするかを出席者にはかつたところ、原告から起立のうえ、役員選挙は投票の方法によつて行われるべく、かつ原告自身役員に立候補するとの発言があつたのに議長はこれを無視し、他の出席者からなされた指名推選の方法によるべき旨の提案を取り上げ、役員の選挙を指名推選の方法によつて行うことおよびその場合は被指名人(役員候補者)の選定にあたる選考委員の人選を議長に一任せらるべきことの可否を出席者にはかり、これに反対の原告を除くその余の出席者に異議がないと認めるや、議長は有沢長宗ら六名を右選考委員に指名して同人らに役員候補者の人選を委ね、よつて右選考委員らが選定した塩井幸次郎ほか二六名の被指名人をもつて当選者と定めるべきかどうかを出席者にはかつたところ、原告以外の出席者全員から拍手で同意があつたので、右被指名人をもつて当選人と決定したものである。
以上の事実が認められ前記乙第一号証、第三号証の一の各記載中、右認定に反する部分および前記乙第一二号証の一、二、第一三ないし第一五号証各記載および証人中村公の証言中、原告が立候補したのは役員選挙に関する手続がすべて完了し、当選人が決定した後のことであり、右手続中に異議を述べたり不同意を表明した者はいなかつた旨の記載および供述部分は、いずれも前記甲第三号証の一、二甲第七、第九、第一〇号証の各記載に照して、採用することができず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
そうとすると、議長塩井幸次郎は本件選挙において出席者中に異議を述べた者があつたのに、指名推選の方法によつて役員選挙を行い、かつ右方法により推選された被指名人を、出席者全員の同意がないのに、当選人と定めたものといわなければならない。ところで、中小企業団体の組織に関する法律四七条二項により準用される中小企業等協同組合法三五条は、一人につき一票の無記名投票によつて役員の選挙を行う(七、八項)のを建前とし、例外的に全員一致の原則のもとに指名推選の方法によつて役員の選挙を行うことを許している。すなわち、役員の選挙を指名推選の方法によつて行うことができるのは、総会の出席者中に異議がないとき(九項)に限られ、しかもその方法を用いる場合においては、被指名人をもつて当選人と定めるかどうかを総会にはかり、出席者全員の同意があつた者をもつて当選人とする(一〇項)こととされている。したがつて、前記認定のとおり、役員の選挙を指名推選の方法によつて行うことはもちろん、被指名人をもつて当選人と定めることに対する原告の反対を無視してなされた本件選挙は右法令の規定に違反するものであることが明らかである。
しかしながら、本件役員選挙にみられるような瑕疵があつても、創立総会において役員選任の決議が全くなされなかつたような場合とは異なり、すでに右選挙で選任された役員によつて所轄行政庁に対し組合設立認可の申請がなされ、これが認可を得たうえ、組合設立の登記を経た以上、たとえ右瑕疵のゆえに後日右選挙が取り消されるようなことになつても、単に役員に欠員が生ずるに止まるばかりでなく、その場合でも総会がすでに後任の役員を選任しているときには、組合としての活動になんら支障がないものというべきである。いまこれを本件についてみると、訴外組合がその創立総会で本件各議決ならびに役員の選挙を行つたうえ、被告県知事に対し右組合設立の認可を申請してこれが認可を受け、同組合設立の登記を経たことは前記のとおり当事者間に争いがなく、そして右役員選挙によつて選任された役員がすでに任期満了し、その後訴外組合では後任の役員がいずれも有効に選任されていることは原告が明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべきであり、そうだとすると、本件選挙に前記認定のとおりの瑕疵があつても、右瑕疵は、本件認可処分の効力に影響を及ぼすものと解することは困難であるから、これをもつて右処分を取り消すべき事由とすることはできない。
6 (議事録の記載について)
原告は、本件創立総会の議事録には議事の経過の要領やその結果の記録をした者の氏名が記載されていない旨主張するけれども、中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条六項の準用する商法二四四条二項によつても、議長ならびに出席した発起人の署名(前記乙第一号証によれば、本件創立総会の議事録にこれらの者の署名のあることが明らかである。)以外に、原告の主張するような議事の経過の要領やその結果を実際に記録した者の氏名まで記載することを要求していないから、原告の右主張自体失当といわねばならない。
7 (別件訴訟の公告について)
また原告は、訴外組合は、原告が別件訴訟を提起したのに、遅滞なくその旨の公告をしなかつた旨主張するが、中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条六項、商法二四七条二項の準用する同法一〇五条四項にいわゆる公告は、単に他の株主、したがつて本件では他の組合員を総会決議取消訴訟に参加させ、自己の利益をまもる機会を与えようとする趣旨のものに過ぎないのであつて、この公告の欠缺は、右決議取消判決の効力になんらの影響を及ぼさないのはもちろん、訴外組合の設立手続の適否とも全く関係がないので、たとえ同組合が原告から別件訴訟の提起のあつたことを公告しなかつたとしても、それがために本件認可処分が違法となることはないから、原告の右主張は失当である。
8 (むすび)
以上の次第で、被告のなした本件認可処分は適法で、これを取り消すべき違法はないものといわねばならない。
三 結論
よつて、原告の本訴請求は、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡村利男 庵前重和 佐野正幸)